第一部/担当編集×小説家①<2>

2/5
前へ
/262ページ
次へ
“ピンポン”―――半分くらい食べ進めた時、来客を知らせるインターフォンが鳴った。さて、いったい誰だろう?僕は口の中の野菜を流し込む為に水を含み、立ち上がって玄関へ向かった。 「相楽さんこんにちは。原稿を取りに伺いました」 「……」 残念なことに、来客の正体は佐谷さんだった。食事中に来るとは、なんてタイミングが悪い。 「午前の予定が早く終わったので、連絡した通り早めに伺いました」 「連絡…?」 「一時間ほど前にメールしましたけれど」 「……メール」 「まさか、また見てないんですか?」 「すみません、買い物に出ていたので気付きませんでした」 言われてみれば、メールの受信を知らせるランプが点灯していたような気がする。一時間ほど前と云えば、買い物から戻ってきてのんびり焼きそばを作りはじめた頃だ。 彼からの連絡は、いつも僕が何か作業に取り掛かっている時に来る。そんなだから十回中八回くらいの割合で気付かなくて、あとでくどくど怒られる。全てはタイミングが悪い。 「全く、あなたという人は……」 すみません、とは言わず黙ってやり過ごすことにした。とりあえず、彼が来たからには部屋に入れなければいけない。僕は渋々、彼を中へ招き入れた。 「食事中だったんですか?」 ダイニングまで進んだところで、テーブルの上の食べかけの焼きそばを見て彼が尋ねた。 そうだよ。僕は今、昼食を摂っている途中なんだ。宅配便か何かだろうと思って顔を出してしまったら、まさかの佐谷さんだったのだ。生活感が分かってしまう都合の悪いものを見られたことで、より一層対応に困った。 ええ……まあ……、などと適当に応えながら彼に対する二の句を探す。
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6150人が本棚に入れています
本棚に追加