第一部/担当編集×小説家⑥<3>

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第一部/担当編集×小説家⑥<3>

多くの人で混み合う店内を避けて、お昼は屋外で食べることにした。 ざわついた中では周りの声に掻き消されてなかなか話もしづらいし、何より人の多さに少し疲れてしまったようで、一旦静かな場所で休憩したいと相楽さんから頼まれた。 彼の希望を叶える為にテイクアウトに選んだのは、以前から気になっていたバーガーショップだった。そこの看板メニューである『ベーコンチーズバーガー』が少し前から雑誌やテレビでよく取り上げられているのを目にしていて、機会があれば行ってみたいとチェックしていた店であった。 厚切りベーコンにトマト、レタス、オニオン、ピクルス。その下にはとろりと溶けたチェダーチーズと大きなパティがはさまっていて、口に入れると溢れ出す肉汁と店で手作りされた特製ソースが絶妙な旨さを引き出してくれる、ジューシー且つボリュームのある一品となっていた。 ドリンクと併せて二人分の注文を済ませカウンターから離れると、相楽さんが再び地図アプリを開いてじっと画面を見つめていた。「何を見ているんですか?」と尋ねてみると、ここからそう遠くない範囲で落ち着いて食事のできる公園がないか調べてくれているという。 そういえば、相楽さんはいつも週末になると駅前のパン屋でサンドイッチを買って、近くの公園に移動してそこでお昼を食べていると話してくれたことがあった。冬の間はさすがに寒くてやっていないらしいが、外で食べると息抜きになるし仕事のやる気も高まるという。 「公園、ありますか?」 画面を見つめたまま難しい顔をしているので、後ろからスマートフォンを覗いてみた。 「ない……ですね。一番近くでも電車で二駅先のようです」 「そうですか」 「困りましたね。他にどこか静かな場所がないか探してみます」 この時、自分の頭にふと考えが浮かんだ。 今までの関係ならまず候補にも上がらなかっただろうが、今の距離感ならもしかすると首を縦に振ってもらえるかもしれない。例え断られたとしても、それは拒否ではなく遠慮に当てはまるだろうし、嫌われていないことは分かっているからショックを受けることもない。 ここは思い切って聞いてみるべきだろう。 「あの、相楽さん」 努めて冷静に。なるべく気を遣わせないように、自然な口調を心掛けた。
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