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「公園ではないですが、一つ思い当たる所があるのですが」
「本当ですか? それ、どこですか?」
「俺の家です」
「えっ?」
「もし良かったら、今から俺の家に行きませんか?」
相楽さんの反応は予想通りだった。まさかの発言に用意していた手札がなく、次の言葉に詰まった相楽さんは、目を丸くしながら画面から顔を上げて俺をじっと凝視した。
「以前一度来ていただいているので場所は分かっていると思うのですが、相楽さん人混みで少し疲れているみたいですし、うちなら周りを気にせず休むことができるので都合が良いかなと」
「ま、待ってください。佐谷さんの家にお邪魔するなんて、そんな……、……悪いです」
「悪くないですよ。寧ろ歓迎します。ご存知の通り狭いですが、相楽さんが嫌じゃなければ」
「……っ」
別に変な気持ちあって言っているのではなかった。
確かに、周りの目を気にせず彼と二人きりで話ができるのは自分にとって絶好の機会でしかないし独占しているみたいで好都合だけれど、近くに公園がない以上、休日の繁華街は休憩するのもひと苦労。相楽さんにとっても俺にとっても悪い話ではなく、断る理由だってきっとない。
「どうしますか、相楽さん。行きますか? 行きませんか?」
押し黙ったまま答えを言いあぐねている相楽さんに、再び同じことを聞いてみた。
「……本当に、迷惑ではないのでしょうか」
「迷惑なわけないですよ」
「佐谷さんが構わないと云うのなら、……お邪魔します」
「それじゃあ、決まりですね」
相楽さんが『行く』と返事をした直後、まるでタイミングを図っていたかのように持っていた番号札が呼ばれてカウンターへ向かった。紙袋に入った出来立てのハンバーガーを受け取った俺たちは、店を後にして電車に乗る為に駅へ向かった。
注文したドリンクは家に来る途中に飲んでしまったので、改めて温かいコーヒーを淹れ直すことにした。
ソファに座る相楽さんに砂糖とミルクの有無を確認し、カップを二つ持って隣の空いたスペースに腰を下ろす。
少し冷めてしまったハンバーガーは、レンジで軽く温めるとチーズがとろけた出来立ての状態に戻すことができた。昼食時はとっくに過ぎて遅くなってしまったが、ライ麦で作られたバンズと共に具材全てにかぶりつくと、噂通りの味の良さに思わず目を閉じて唸った。
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