第一部/担当編集×小説家⑥<4>

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あとのことは、相楽さんの返事次第だ。 どんな答えを伝えられても、きっと俺は素直にその言葉を受け止められる。 後悔することは、きっとない。 「突然こんな話をして、すみませんでした」 何も言えず俺を真っ直ぐ見たまま瞬きだけを繰り返している相楽さんに、精いっぱいの謝罪の言葉を口にして笑みを浮かべた。 「冷えてきたので、帰りはタクシーを使ってください。俺、表に出て拾ってきます」 「佐谷さん……!」 「返事は急ぎません。ゆっくり考えていただければいいです。例えあなたがノーを示したとしても、俺は編集者としてあなたを全力でサポートします。……俺は、あなたの担当ですから」 部屋を出て閉じた玄関にもたれ掛かると、一度項垂れてから顔を上げてマンションの天井を仰いだ。 目を閉じて深く息を吸ってからゆっくり吐くと、体中の熱が少しずつ引いていき、うるさかった鼓動が静かになった。 「あなたのことが好きです、相楽さん」 ずっと言えなくて、ずっと本人に言いたくてたまらなかった言葉をもう一度だけ繰り返した。不意に鼻の奥がツンと痛くて熱くなり、親指で瞼を撫でてからマンションの階段を降りていった。 朝の予報通り、その日は春一番が吹くとても温かい日だった。 俺は相楽さんに、自分の言葉で好きだと伝えた。
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