第一部/担当編集×小説家⑦<1>

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あれから佐谷さんとは三度打ち合わせの為に会ったが、彼はいつもと何ら変わりなく、そんな告白をしたことなどなかったように態度も言葉遣いも僕が知っている佐谷さんのままだった。 取り乱しているのは自分だけだ。 それがまた情けなくて、ひどく居た堪れない気持ちになる。 『返事は急ぎません。ゆっくり考えていただければいいです。例えあなたがNOを示したとしても、俺は編集者としてあなたを全力でサポートします。……俺は、あなたの担当ですから』 三週間が経った今も、僕はまだ彼に返事を伝えられないままでいた。 伝えると言っても、何と伝えればいいのだ。 僕は彼に、何を伝えることができる。自分は佐谷さんをどう思っている。 (僕はいったい、どうすれば……) 考えても考えてもいっこうに答えが出ない質問を、これまで何度繰り返しただろう。 僕は何に悩み、何を迷っているのか。そんなことすら、自力で答えを見つけ出せない。 「少し、外の空気を吸いに行こう」 作業途中である原稿のデータを上書き保存し、僕はパソコンの電源を落として戸締まりをした。 向かう場所は、いつも息抜きに使っている公園だ。財布と端末だけをポケットに入れて、マンションの階段を四階から下りた。
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