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からかうように彼女は乾いた声で笑った。
だがその瞳は眠そうに閉じられそうだった。
「俺は逃げない」
彼女はまるで知らない外国語を初めて聞いた子供のように、
不思議そうに俺を見上げた。
「君からもこの国からも……。
だから言ってくれ、俺に。
“おかえり”と──
明日の朝、病院のベットの上で。
その時、君にだけ、ノワールでもマリンカでもない、
俺の本名を教えるから」
夜風が撫でるように彼女の前髪を揺らす。
皮肉からか痛みからか、彼女はわずかに顔をしかめた。
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