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私の部屋のドアは、上部が通風口のようになっていて、そこにはガラスが嵌めてあるため、廊下の電気が付けば明かりは私の部屋の中まで届くのだ。
しかし、足音は上がってくるのにも関わらず、明かりがつくことはなかった。
ぞくりと、初めて肌が泡立った。
家族は全員、いかに夜中でも、闇の中、階段を上るような無謀な真似はしない。夜中、トイレに起きた時でも明かりを付けて向かうのだ。
あれは、家族ではない?
目の前の目覚まし時計を見つめる。
時計は何事もないように秒針を進めている。
夢では無い。
手足も視線も自由に動かせる。
だが、得体の知れない恐怖に、動くことも目を閉じることもできず、頭から布団を被ったままで固まる。
その間も足音は、階段から1番奥にある私と、向かいの姉の部屋に向かってくる。
姉の部屋のドアが開く音がした。
それから、姉が寝ているはずのベッドの向かいにあるカーテンが閉められる音。
足音が、姉の部屋を出る。
そして。
私の部屋に、それは入ってきた。
背を向けたドアが開く音。近づいてくる足音。
ちょうど、私の横になった腰のあたりのベッドのスプリングが、膝を立てられたように沈む。
耳元に、
囁く声音で。
「おかえり。」
爪先から、頭の先まで、一気に鳥肌が駆け上がった。
秒針を見つめたまま、約三十秒。
がばっと、振り返りざま、枕元のライトを付ける。
振り返った部屋には。
ただ、いつも通りの部屋が広がっていた。
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