1章 黙秘

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如月桃磨(きさらぎとうま)は都心の外れに建てられた物件に住んでいる。 如月邸と呼ばれているだけにその邸は広く、建築年数も長い。物件が建てられたのは明治時代という話であった。古い瓦は今でも綺麗に整備されている。 軒下に蜘蛛の巣は見当たらない。外見はとても美しかった。 中庭には探偵事務所があることで有名だった。その探偵事務所は、イサコの同僚であった赤石圭吾が開いたものだ。 今では桃磨が助手として働いている。確か桃磨が高校三年のときに開かれた。あれから何年経ったのかイサコは忘れてしまっている。 久しぶりに運転する道には何時のまにかコンビニができていた。細い道を通り抜けて、門に車をすべらせる。 空いたスペースに車を置いて、イサコは探偵事務所と言われる元創庫の扉を開いた。 「こんにちわ。桃磨君居る?」 声をかけるとワイシャツとジーンズという不思議な出で立ちの桃磨が書類をまとめて顔を向けた。黒い眼差しも髪の毛も、あどけない表情の桃磨は昔と変わらない。大学生だというのにそこだけ時間がとなっているような感覚さえ覚える。 「イサコ刑事。お久し振りです。なにかあったんですね」 桃磨は早速そう呟いた。 イサコに席を勧めて、桃磨も向き合うように腰掛けた。茶菓子を出さない辺りは昔と同じだ。イサコも特にはきにしていない。そんなことよりも要件の方が大事であった。
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