第一章 出会い

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椿の低い木々に導かれ、立派とまでは言い難い石段の上をコツコツとヒールの音が響く。外観が洋館からか、いつの間にか中の庭もバラが咲いて白い机に椅子があってと、妄想が膨らんでいたが、花は椿であったり、小さな灯篭があり、火を毎夜灯しているのか蝋の跡があり、またその先に見えた店の扉は、日本特有の格子の扉。ここまで来て、もしかしたら踏み入れてはいけない高級店だったのではと、急に不安が押し寄せて、お店の人に見つかる前に退散しようと踵を返した。 「あれ、珍しいな~、お客さん?」 振り返った瞬間に視線が合って、やばい、見つかっちゃった…と、顔を歪めた。その表情は絶対に隠せていなかっただろう。でも、ニコリと満面の笑みを見せている目の前のお店の人は、そんな私の表情を気に留めず、距離を詰めてくる。 「よかったら、中を覘いて行きませんか?久々のお客さんですし、歓迎しますよ」 やんわりと、伺うように声を懸けてくれているが、でも、それは有無を言わせるつもりはない様で、風呂敷を持っている反対の手を伸ばし、そっと優しく腰を押されて、拒むことも出来ないまま、お店の中へと足を踏み入れてしまった。こうなってしまえば、目を盗んで逃げるしかないと決めた。しかし店に入ると、そんな考えはどこへやらで、想像していた高級料理店か何かかと思っていたの は、綺麗に想像を裏切られた。 「びっくりした?」 「あ、はい…」 「だよねー。まさか、この家の外観の感じで、中がこんなのだなんて想像できないよねー」 ケラケラと客観的にディスっている目の前の男性に、もしかして、やばい人なのかと距離を置こうと体制を低く取ったが、それを見られてさらに笑われた。「そんなに警戒しなくても。僕、何もしてないでしょ?」 そういわれてしまうと、確かにそうだが、可笑しな人には変わりはない。そんな私の分析は留まるところを知らず、更に、その男性の行動やらを分析してしまう。
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