パズルの欠片

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「ヒカル、私たち、そろそろ進展して良い時期に来てるんじゃないかな」 夏休み直前、梅雨明けの暴力的な日光に照らされた平日の動物園はそこそこ空いていた。 サルの親子が毛づくろいに励んでいるのを眺めていた私は、視線を逸らさないまますぐ近くに立っているヒカルに向かってそう切り出してみた。 動物の交尾でも見ながら切り出せば、もう少し色気が出たかなと思ってここまで歩いてきたけれど、生憎この暑さは生き物から生殖意欲を根こそぎ奪うらしく、そのような場面には遭遇できなかった。 「今夜こそ 二人の距離をマイナスにイタしましょう  熱く 高めて 濡らして 溶け合って  イケナイパズルの欠片 ハメちゃいましょう」 私は、先月発売したアルバムの中におさめたいつもより多めの色気をこめたお遊び曲のワンフレーズを小声で口ずさむ。歌詞だけ見れば卑猥だけれど、うちのバンドの特色であるポップな曲調に乗せて歌うので、そこまで下品には聞こえないはずだ。 数歩離れたところで手を繋いでいるカップルの耳には届かなかったようだけど、ちらりと見上げたすぐそばにいる茶髪の美青年はちょっと怒っているようだった。 これ、作詞したのは私だけど、作曲したのは君だよね。酒の勢いがあったとはいえ、案外ノリノリだったくせに何を今さらいい子ちゃんぶってんの?
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