パズルの欠片

「雫（しずく）、唄いたいならスタジオに戻るよ」

ファンからは、『何を考えているかわからない不愛想なギタリスト（笑えば絶対に素敵な王子様系の素材を持ってるくせに。イケメンの無駄遣い）』と評されているヒカルはちょっと怒った口調でそう言った。
私は完璧な笑顔でヒカルを仰ぎ見る。
最近ちょっと人気が出てきたので、掛けろと言われたサングラスが鬱陶しいけれど、まぁ仕方ない。

「ちょっとくらい、プライベートな時間があってもいいと思うよ、私たち。
　ヒカルだって賛同してくれたじゃん」

ボーカルである私とギターのヒカル、そしてベースのエイトとドラムのリカとは大学の軽音楽部で出逢い、バンドを組んだ間柄だ。
学生時代だけのお遊びだったつもりだったのに、あれよあれよと人気が出て三年の時にインディーズデビューした。卒業までは、ライブ活動メインでメディアへの露出は意識的に控えているので道行く人から注目を浴びることはない。
けれども、来年卒業と同時にメジャーデビューするのだから、なるべく後で問題になるような行動は慎むように、と、事務所の社長からは厳命を受けていた。