パズルの欠片

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「それは、雫がふさぎ込んでいるように見えたからで――。  不純異性交遊したいわけじゃない」 同い年とは思えないような発言だ。そんな言葉、私の辞書には載ってないよ? 加えて言えば、いつもにこにこと笑みを絶やさない私を見て「ふさぎ込んでいるように見える」とか君の眼は節穴か。 私はそこらへんでいちゃついているカップルを見習って、ヒカルにしなだれかかった。 「じゃ、純粋な気持ちがあればいいってことだよね?  私、ヒカルのこと大好きだよー。かっこいいし、曲のセンスも抜群だし、いっつも私の我侭に付き合ってくれるし。だぁいすき」 にこにこと笑って甘える私を、ほら、行き交う男だって羨ましそうに見てるよ。隣の彼女さんは睨んでいるけれど。 胸のサイズはEカップ。ジムに通ってるからスタイルだって悪くないし、メイクの腕だって格段に上がってるんだから。 「雫」 殊更静かな声で、ヒカルは私の名を呼んだ。 顔を見上げれば、形の良い瞳が明らかに怒気を孕んでいてうんざりする。そんな風に真剣に好きになってもらわれちゃ困るのよ。 気付かないふりは得意だ。私は自分を護るために根っからの嘘吐きで生きてきたんだからね。 蝉も鳴かないほどの炎天下だけど、仕方ない。君にとびきりの甘い笑顔をプレゼントするよ。甘えた声を出しながら、上目づかいであなたを見つめ、おしげもなくこの胸を摺り寄せてあげる。この猛暑で奪われてしまった生殖能力だって頑張って復活させてみせるよ、私。 「なぁに、ヒカル」 キスしてセックスして私の身体に溺れちゃってよ。 簡単でしょ? 高校時代の君は来るもの拒まずで、色んな子を食い散らかしちゃってたってこの前君の同級生から聞いたんだ。 私の情報力を甘く見てもらっちゃ困るよ。 ――あんな状況でだって生き抜いてきたんだから。
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