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「雫、後10分でミーアキャットの餌やりタイムだってよ?
どうする?」
ソフトクリームを食べながら、改めて動物園のパンフレットを眺めていたヒカルが殊更優しい声でそう聞いてきた。
さっき、並んでいるミーアキャットを見て、『可愛い、可愛い』と連呼していたのを覚えてくれているみたい。
「じゃあ、それは見に行こうかな」
噂通り美味しかったソフトクリームを食べ終わり、立ち上がる私の手をヒカルが握った。
びくりと身体が震える。
自分から人に向かっていくときは心を完全防備しているからいいのだけれど、相手から突然こられるとダメなのだ。
何の前触れもなく私に抱きついてきたあの、ふざけた淫乱暴力男のことが脳裏に甦るから。
「あはははー、ヒカルったら。
急にそんなことしたらびっくりするじゃん」
自分の気持ちにだって気付きはじめていた。
穏やかで、観察力の鋭いヒカルに惹かれ始めていることを。
だけど、こんな秘密を抱えたまま人を深く愛するなんて無理だから。軽いノリで済ませたかった。
ヒカルのことも自分のことも騙しておきたかった。
後半年もすれば、仕事が忙しくなって愛だの恋だの言っていられなくなるだろうし、小姑並みに煩いマネージャーがついて、「バンド内恋愛禁止」って言い出してくれるだろうし。
後ほんの半年くらい、ただの身体の関係で繋いでおけば――そのうちヒカルだって飽きるに違いない。
今みたいに、心まで見透かそうとはしなくなるに違いない。
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