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「雫が言いたくないことまで、聞きだすつもりはないよ」
私から手を離すと、立ち上がって歩き出し、人通りのないところまで来るとヒカルは穏やかな声で言った。
「すべてを曝け出して付き合って欲しい、なんてことも言わない。
身体だって、繋げなくても構わない。
――だから、無理して笑うなよ。少なくとも俺の前でだけは」
「ばっかじゃないの?」
気付けば私は繕うことも忘れて、ヒステリックに怒鳴り返していた。
「誰かの前でだけ気を抜けるわけないわよ。
それが原因で全部ほころびたら、どうすんのよっ」
――もう、生きていけない。
「折角私の居場所を作り上げたのに――なくなったら、どうすんのよ」
ふわり、と遠慮がちにヒカルが私の抱き寄せた。
怖がらないように、嫌がらないように。
捨て猫を保護するときにも似ている、絶妙な力加減で。
「だったら、俺がそのパズルの欠片になってやるよ。
お前が綻びそうになったら、カチッと留めておいてやる」
真実なんて知らないくせに。
無駄に男前なんだから――。益々惚れちゃうじゃない。
「そんなこと言ったって、本当のことは語らないわよ」
「言いたくないなら、聞きださない。
約束する」
腹が立つほど誠実な声だった。
「簡単に抱かせてだってあげないんだから」
「それは、もったいないことをしたかも」
冗談めいて言って、穏やかな笑顔を見せてくれた。
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