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組織と連携しているラブホテルに着くと、フロントに声を掛けた。
「あのー……」
「はいこれね」
あのー、しか言ってないのに、金髪女子のフロント係に、カードキーを渡された。
カードキーに記された部屋番号を辿(たど)って、クライアントを連れていく。
このホテルの部屋は、かなりバリエーションが豊富で、中にはマニアックな仕様の所もあると聞いていたけど、今夜のクライアントが希望したのは、あまり派手じゃない、普通の部屋。
携帯などの所持品を預かり、代わりに、こちらで用意した携帯を渡す。
万が一、何かあった時は、待機中の私に連絡が入る。
もちろん、部屋の、フロント直通電話でも対応可能。
でも、念には念を入れて。
必ず先にクライアントを部屋で待たすのにも理由がある。
商品を先に入れて独りきりにすると、盗聴器や盗撮カメラをこっそり仕込む可能性が、絶対ないとは言い切れない。
当然、商品の持ち物検査、所持品没収は必須だけど、やはり念には念を入れて。
それだけ【女が男を買う行為】には、【男が女を買う行為】よりも、危険や、気を付けなければならない事が多い。
「何かご用がある時と、退室の際には、私かフロントに連絡ください。退室時には、私が部屋までお迎えに参りますので」
「―――――あの」
一礼して、ドアを閉める瞬間に、クライアントの不安な顔と声。
「大丈夫ですよ。どうぞ素敵な時間をお過ごしください。それでは、失礼します」
扉が完全に閉まると、私は大きく息を吐いて、預かり品と、カードキーを持って、早足でフロントに戻った。
ああ、変な汗かいた。
まだ始まってもないのに。
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