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戒斗はすかさずまえにまわりこんで、開いたくちびるをふさいだ。
すぐに離れると――
「おれのこともラクにしろ」
叶多の剥きだしの耳もとに囁いた。
戒斗の腕を抜けだした叶多は、耳を手で押さえながら首を縮めて笑う。
「くすぐったい」
叶多のまったく色気を無視した感に、戒斗は顔をしかめて抗議した。
が、通じるはずもなく、叶多は問うように首をかしげる。
無視したというよりは気づいていない。
迷いが生じる。
同化したい気持ちとこのまま取っておきたいという矛盾した気持ちが交差した。
こんなことで悩むってどういうことだ?
やっぱ――。
「おまえのせいだ。風呂、入ってくる」
戒斗はかすかにため息をついて背を向けた。
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