第1章

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父は遠方で一人暮らしをしながら仕事をしていたから、母の世話は私が任された。 『大変だけど頼むな』 治療費もあるから父は仕事をしなければならない。 それを私も解っているから、時間がある時は私一人が病院に通う日々が続いた。 正直に言えば、私はいい娘じゃなかった。 入院中で不安な母とケンカをする事もあったし、忙しさで何日も病院に行けない日もあった。 ベッドの上の母は日に日に弱り、杖をついていれば歩けたのに自分の足で歩く事も出来なくなった。 骨と皮だけになった細い足に、エリテマトーデスの症状なのか薔薇のような赤い痣があちこちに出ている。 「ここじゃ、テレビを見るくらいしか出来ないのよ。早く家に帰りたいわ」 病院で出された食事も半分くらいしか食べられなくなっているのに。 それでも母はいつか家に帰れると信じているんだ。 「家の近くにショッピングモールが出来るって話、前からあったでしょ? あれ、やっと工事が始まったのよ」 私が近況を教えると母は嬉しそうに「退院したら行きたいわね」と笑って。 「でもこの足じゃ歩けないわね。車椅子で行く事になっちゃうかしら?」 いつか元気になる未来を見ていた。 .
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