第1章

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ドラマのように泣けないから、私は冷たい人間なんじゃないかと思っていた。 母の死を悲しんでないんじゃないかと。 確かに母が亡くなった時、もうこれで母は苦しまなくていいんだ。 私も病院に通う生活から解放されるんだ。 そんな風に思ったのは事実だ。 でも、そうじゃなかった。 確かに私は、母の死を悲しんでいた。 あれもしてやれば良かった、これもしてやれば良かった。 そんな後悔ばかりが溢れてきて、胸が苦しくて涙が止まらない。 「ごめんね、ごめんね……」 もう涙で滲んでいて、母の顔が見えない。 それだけ言うと、私は棺桶の小さな蓋をそっと閉めた。 帰って来たね、良かったね。 これからはずっとこの家に居ていいのよ。 『母さん、おかえり』 【終】
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