再生──敗戦前

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再生──敗戦前

 真っ暗闇のなか、誰かの声にならないうめき声に驚き、眼が醒めた。しかし両の瞼とも、糊付けされたようにくっついていて、なかなか開けることができない。  とたんに、麻痺していたらしい躰の感覚が戻ってくる。それと同期して、全身に断続して鋭い痛みが走りはじめた。熱い。躰中の、神経という神経すべてが刺すように痛い。  一方で背面全体に、重力に従った圧迫が感じられる。どうやら横たわっているようだった。硬い床の上に、布地の、薄い敷きものにあおむけに寝転がされ、後頭部には枕代わりに雑嚢が当てられている。  やっと、瞑っていた眼がひらいた。しかし視界は、黒の濃度を変えず依然として暗い。真夜中か。それにしても、ここはどこなのだろう。 「気がつかれましたか、井ノ上一等兵」  すぐそばで誰かが囁いた。上半身を起こそうとしたが、指先一本ぴくりとも動かない。同時にまた、誰かがうめく声を微かに聴いた。数秒かかって、ようやくそれが自分の口から発せられたのだということに気づいた。 「いまは無理して動かないほうがよい。それに喋るのもう無理だから、よしたほうが」  低い、中年男性の声だった。覚えがある。幾度か野営中に世間話をしたことのある、角張った顔つきの痩せた衛生兵に違いない。彼が覗きこむように話しかけてくる。 「安心なさい、ここは野戦病院だ」 「な……に……が……」  何が、あった……それだけの語をゆっくりと、しかし必死に喉もとから絞り出した。 「うん。井ノ上さん、あんた、敵機から攻撃を受けたんだよ。急襲だった。あんたと一緒にいた人間はほとんどやられた。あんたも火にやられたんだ。爆弾でぶっ飛ばされたあと、火がついたんだな」  生きていた、のか。と実感した瞬間、意識を失う寸前の記憶がまざまざと甦った。まばゆい爆発。先にいた兵がなぎ倒される爆風。なぜだ、なぜ自分は生き返った……。この肉体は粉々に砕け散ったはずではないか。
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