海を望む墓地にて──敗戦後

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 ……いまでも覚えています。貴方と並んで見た平和な海の輝きを。  そしていまでも激しく後悔しています。  あのとき、貴方を戦地へ送り出したとき、いってらっしゃいなどと手を振るのではなかった。ふたりが夫婦になってまだ間もない、つつましやかなこの家から見送った、貴方の凛々(りり)しい後ろ姿が忘れられません。なんてわたくしは軽率だったのでしょう。なんて意志薄弱だったのでしょう。貴方の脚を折ってでもすがって止めるべきでした。非国民と世間から罵られようと、貴方を兵隊にとられるのを、危険な戦場へ駆られるのを、なぜ本心のまま反対しなかったのでしょう。いまになってそのことが悔やまれてなりません。  ただただいまは、誠さんの無事を祈ってやみません。誠さんがお帰りになられるまで、わたくしはここでいつまでも待っております。  そしてまたあの海を一緒に望み、貴方と手を繋ぎたい。  井ノ上碧
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