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「この海がそのことを証明しています」
「この瀬戸内海が、ですか」
ちょうどそのとき、視線の先の沖合いに、一隻の大型船が白波を立てながら、汽笛を鳴らし横切ってゆくのが見えました。
「そう、瀬戸内海は昔から日本の重要な幹線交通網だったのです。北九州や近畿などの要所要所と人とを繋ぐ、航行上の欠かせない交易路としてこの海は存在してきました」
「それは……そうでしょうけど」
理解が追いつかず、曖昧な相槌を打つわたくしに、丁寧に貴方は教えてくれました。
「かの、信長を手こずらせた村上水軍のような海賊もいましたが、ここはそれほど頻繁に人や物が行き交う場だったのです」
「それが、日本が島国でいろいろと狭いことと、どう関係するのですか」
「日本が島国で狭いがゆえに、だからこそ外国と交易がむしろ盛んだったのです。四方を海に囲まれ、平地の少ない峻険な山脈地で暮らさなければならなかったからこそ、外の世界や人々との交流は自然とあったのです」
それを聞いて、わたくしは目を見張る思いがしました。
「日本が島国だからこそ、考え方や価値観が狭くて閉鎖的、排他的になるのではなく、むしろ外の国やほかの文化の人たちと積極的にかかわりあいをもったのです。自分たちとは異なる考え方や価値観をもつ者と仲良く、ときには衝突することもむろんあったでしょうが、できるかぎり接点をさぐり、たがいにたがいを知り、学び、共通点も相違点も大切にして長い間生きてきたのです」
「では、日本は……」
「そうです。外国と憎み合い、殺し合うような愚かなことは即刻やめるべきです。かつて自然としていたように、たがいにたがいを深く広く知り、尊重すべきなのです」
そうはっきりと断言した誠さんの目は、海を映したようにとても澄んでいました。
「穏やかなこの、たくさんの島々と人々が共存して生きる、豊かで美しい海のように」
しずかだった浜辺に伝播した大きなうねりが辿り着き、ふたりのすぐ足もとまで迫ってきました。
わたくしはいまでも覚えています。貴方と並んで見た平和な海の輝きを。
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