天の間

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 歯茎から血を滴らせ、それでも歯を食いしばり、屈強な男と殴り合いをしていると、ついに屈強な男の空きを突いて背負い投げで倒した。俺は親切な女性とお婆さんと一緒に車のドアへと走り出した。傷だらけの屈強な男は、白い砂に埋もれていった。 「いやー、頑張りましたね。今日は天国の門は終了です。明日になるまで休みましょう」  金髪の男は俺たちを突然、空中に現れた豪奢な両開きドアへと迎えた。 「さあさあ、こちらへ」 金髪の男は俺たちを建物の食堂に案内した。廊下は窓には美しい湖や宙に浮いている水晶玉など、見たことのない大自然が広がっていた。 食堂には中央に丸テーブルがあって、明るくシャンデリアやレースのカーテンなど洒落た内装だ。 「ここはどこですか?」 俺の問いに、金髪の男は無表情に口を開いた。 「天国と現世の狭間です。安息の地ではなく。けれども、葡萄酒とパンがあるところです」 「?」 「さあさあ、召し上がって下さい。好きな物を好きなだけ。そして、明日に備えましょう」 金髪はそう言うと、パンと葡萄酒を皆に分け与えた。 「あ、そうだ。あなたここで働きませんか?」 俺は自然に頷いていた。何故だろう? 「あ、私も働くわ」 親切な女性も自然と賛同した。 お婆さんは食べるだけ食べると、黙って一人で寝室を探しに行った。 次の日から俺は天国の間で働くことになった。親切な女性の名は藤堂 美希。俺より一つ年下のOL。お婆さんはここの仕事には興味がないようで天国へと行った。 そういえば、俺は交通事故で死んだんだ。 ストーカー擦れ擦れになった恋人をナイフで刺し。大学を辞めてぶらぶらしていた時に。ふと、道路へ飛び出した。 一台の車が俺を轢いた。 その車を運転していたのは女性で、なんでもブレーキとアクセルを間違えたらしい。その女性の名は藤堂 美希。交通事故を起こした後、生きる希望を失い自殺をした。  
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