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「さあさあ、早く入って!」
俺は白いドアに今日一日の亡者を入れる。
中には「ここの中は地獄じゃないですよね?」「天国でも餡蜜はありますか?」「魔王を倒したい!」など、今となっては些細な日常の会話が俺の耳に入る。
美希はやはり親切で、金髪から聞いた。天国の生活を困惑する人々に教えていた。
金髪は相変わらず無表情に仕事をしている。
そんなある日。
金髪が言った。
「もう一つ仕事があるのです」
俺と美希は首を傾げた。
「部屋の掃除です。お給料も与えます」
豪奢な扉が現れて、金髪は俺たちをいそいそと中へ入れる。
質素な部屋の中には種々雑多な本が散らばっていた。
「今日で終わらせて下さい」
金髪はそう言うと外へ出てしまった。
俺と美希は埃だらけの本の山を見つめ。お互い頷いた。
3時間かけてようやく壁に広がる本棚に本を並べ、雑巾とハタキで埃を払った。
「あの。雄介さんはどうして、ここで働きたいと思ったんですか?」
「正直わからないんだ」
俺はきっと難しい顔をしているんだろう。
美希も同じ顔をしていた。
「私もです......。でも、ここの仕事は楽しいですよね」
「ああ。そうだな」
俺は仕事のない天国へ行くよりも、ここで働きたかった。そんな生き方を選んだ。でも、俺はもう死んでいるんだ。
「あ! 危ない!」
美希の叫びで、俺は本棚が揺らいだのを見た。どうやら、建て付けが悪かったようだ。俺は数十とある本を受け止めようと、両手を広げたが。
本の山に埋もれてしまった。
「クスクス。雄介さんって、時々面白いですね。私の前の彼氏より強いしカッコいいし」
「はー……。また、やり直しだ……」
窓の外は相変わらず美しく。天国の争いのない素晴らしさが垣間見える。
そこには何もなく。そして、全てがあった。広大な大自然が広がり、川やせせらぎの音。ハトが水晶玉の浮く天空を自由に飛び回る。人々にとっては生まれ故郷なのだ。
壁一面の本棚には、生物学や建築など、薬学、歴史に数学と人間の知識で一杯だった。
「こんなに、本があったんですね」
美希が辟易しながら呟いた。
「ああ、人間って凄いな」
「一体。何冊あのでしょうか?」
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