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「紳士淑女の皆様。大変永らくお待たせ致しました! マジシャン神埼......」
匠馬の登場です。と前口上を切り出す前にロサンゼルスの路上に集まった観客から容赦のない野次が飛ぶ。
「マジシャン辞めろ!」だの「日本に帰れ!」だのとまるでデモ抗議だ。警備員を雇えなかったので警備がないことを良いことに、誹謗中傷や罵詈雑言はエスカレートし、遂にはゴミくずや空き缶や空き瓶も飛んできた。
中には「お前の衣装脱いだらショーを観てやる」と卑猥な言葉を浴びせかける観客もいて流石に私はカチンと来た。
「あの、お客様......」
「光ちゃん、構うな。ショーを続けるんだ」
神埼くんは私がお客様のバッシングにキレそうになったのを察して声を掛けてきた。
気持ちは判るよ。神埼くんはマジックで観客を楽しませ笑顔にし、幸せになって貰いたい人で、その為にマジックにしか興味を示さない人だってことも。
私は、衣装のことでお客様からとやかく言われるのは慣れているからなんともないんだけど。
神埼くんの相方を務めるまではフーターズ(露出の高い服装の女性店員がいる、米版のメイド喫茶)で際どい衣装着てジロジロ見られたり、セクハラされたこともあるし、バニーガールの衣装だってそんな恥ずかしくない。
けれど神埼くんのショーを貶されるのが一番許せない!
あんたにマジシャンとしてのプライドないのって言いたいけれど、神埼くんがそう言うなら、堪えるしかないか。
「続けて宜しいでしょうか? 神埼匠馬の登場です!」
前口上を終えると、私は路上に横たわる棺桶まで歩き、棺桶脇に備えられた剣を手に取ると縦に構えた。そして棺桶に思い切り突き刺す。仕掛けられていた血糊の袋が派手に破裂して鮮血が飛び散ったような演出に仕上がる。
欧米人てグロ描写と言うのかこういう演出を好む人が多いんだよね。
神埼くんはマジックをやめた時に何度か自殺未遂したことがあり、脱出マジック用のロープで首吊ろうとしたり、マジック用の短剣を飲み込もうとしたり、人体切断マジック用の仕掛けでバラバラ死体にしてくれと懇願したこともあった。
この演出はその時に思い付いたらしい。
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