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観客の目がジムさんに集中する。
「おかしな事を言う。だいたいアマンダを誘拐した犯人がこんなとこに来る筈がないだろ」
「そうですね。誘拐犯は被害者の管理をしなければならないので確かにここに来る事は出来ません。ひとりならば。然し複数なら話は別ですが」
そっか。
誘拐が組織犯ならその中の一人はここに来れるよね。
「じゃあ誘拐犯がこんなとこに来る目的はなんなんだ!」
ジムさんは観客の輪の中から神埼くんの方に足早に近付くと彼のTシャツの襟元に掴みかかる。これが追い詰められた時に犯人が狼狽する表情なのか、呼吸を荒げて頻繁に目を泳がせている。
「お客様。お戻り下さい」
私は思わずジムさんを観客席に戻そうとするが、神埼くんはそれを止めた。
「いいんだ光ちゃん。ジムさん。誘拐犯がここに来る理由を説明します。それは誘拐した被害者が甦るだなんてそんな筈はありえないと多可を括っていたからですよ。ましてやそんなことで自分の犯行がばれることはないともね。加えて今回のショーには警備員がいなかったので怪しまれずにここに来れた」
まさか神埼くんは、それも計算の内で路上でショーをすることを承諾していたの? 披露したマジックは犯人を誘き寄せる為の布石だったと言うの?
「お前は探偵でも警察でもないと言ったな?」
「ええ。唯のマジシャンです」
「だったら逮捕する権限はない訳だよな?」
「ありません。そしてあなたも逃げる事は出来ませんよ。お忘れでしょうか。これはテレビで報道されていることに」
神埼くんは、にやりと笑みを浮かべ白い歯を見せた。
ジムさんの顔はこの瞬間に全米のお茶の間に知れ渡り、同時にアマンダさんを誘拐した犯人と言う事も公表されたようなものだ。然し、ジムさんは最後の悪あがきに出た。観客を押し倒しながら道路に抜けると車に乗り、一目散にどこかに走り去って行ってしまった。
放送からジムさんの事を聞きつけたロス市警のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら観客の後ろを横切り、ジムさんの車を追跡する。
「さて。これで僕のショーはお開きとさせて頂きます。皆様、ご観覧ありがとうございました!」
神埼くんは観客の方を向き直り、深々と頭を下げた。
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