魔法の言葉

4/4
前へ
/4ページ
次へ
☆☆☆☆☆ 疲れているのか、座席に腰掛けるとすぐに目を閉じた青年。 ーー羨ましい。 ただ、純粋にそう思った。 私も、昔はそうだった。 毎日遅くまで働いて、家族が寝静まった中帰宅する。 たまに、無理して起きてくれていると、嬉しい反面、無理させてすまないと後ろ向きな気持ちになったりして。 そんな家族も、私にはもういない。 定年後から始めたトレッキング。 毎週のように夫婦でどこかしら行っていたけれど、妻が亡くなってからは随分久しぶりだ。 一人でも、それなりには楽しめる。 楽しめるけれども、真っ暗な家に帰って、誰にも「おかえり」と言ってはもらえない。 淋しいものだ。 だから、私は君が羨ましい。 家に帰って、「おかえり」と言ってもらえる君が……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加