雨の中

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 外は白い嵐だった。  昼下がりから急に降りだした雨は、激しさを増してさらに強く窓に打ち付けている。  青年はそんな窓をぼうっと眺めて、湿った紙の匂いがする店の中でひとり、ぽつんと座って店番をしていた。  この雨では客など到底来る筈もなく、また、日頃から滅多に客の来ない古書店には裸電球の赤い光と、青年と、本の山。  青年は窓の外をただ見つめて、物憂げな表情で本が山積みになった机に頬杖を突くと、ほっと溜め息をついた。  通り客が滅多に来ないこの店は、昔から閉店時間の前によく店を閉めていたが、それは今でも同じであった。なら別に早めに店を閉めても何ら変わりはなかったが、青年は何となしにそう言う気になれないでいた。  店の主の伯父が死んでから一年。青年はその伯父の代わりにこの古書店を引き継いだのだが、何分知識も乏しく、若すぎたこともあってかなり苦労していた。そこに大学進学という親からの重圧もかかって、青年はこの古書店を手放すかどうか迷っていたのである。  青年には店を閉めてしまう事が何だか寂しいようで、毎回これが最後なのではないかという気がしていた。そう思っていた事もあって、青年にはますます店を閉めづらかったのだ。  外の雨はますます激しくなっている。しまいには雷までなり始めた。  青年はもう少し店を開けていようと思っていたが、その轟音を聞くと、流石にもう客は来ないだろうと、重い腰をあげた。
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