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リッカ・タチバナという名前の女がいる。
魔王討伐パーティーの剣士であり、年齢に見合わないずば抜けた剣の腕を持つ天才少女と言われているがーーその実態は俺と同じく元・日本人の転世者だ。
本名は漢字で橘六花。年は俺と同じく十八。
この世界に来たいきさつも俺とまったく変わらない。日本でうっかり死んでしまい、女神に魔王討伐を頼まれてここに来たという流れ。転世の際に女神から受け取ったのは、『誰にも負けない剣の才能』。絵に描いたようなチート能力である。
まあ元がただの女子中学生だったので、いくら剣の才能があったところで剣を振り回すだけの筋力や体力がなかったなんてオチがあるんだがな。俺と出会った当初はその辺で拾った枝で戦っていた。金属製の剣は重くて持てなかったそうだ。
ともあれ、そんなリッカも今では『百剣の王』と呼ばれる有名人だ。隠居した俺や行方知れずの残り二人と違い、唯一表立って活動しているのがこいつである。魔王討伐後は王国軍お抱えの顧問剣士として日夜兵士を鍛えているとかなんとか。
で、そんな超VIP様が。
「あのあの、タチバナ様は紅茶でよろしいですか?」
「ええ。お気遣いありがとう。リッカと呼んでくれるともっと嬉しいんだけど」
「はい、リッカ様」
どうして当然のように俺の家でくつろいでいるのだろう。
ここは研究室の隣にある客間。中央には来客用のソファが置かれ、リッカは俺と向かい合うようにして堂々とソファに腰かけている。
ちなみに外に面した研究室の壁にはこいつの侵入経路である大穴が空いたままだ。
強盗かこの女。
そんなことを考える俺の向かいの席で、リッカは台所に消えていったミアの後ろ姿を感慨深げに眺めつつ、
「……気配りのできるいい子ねえ。おまけにとんでもなく可愛いし、あれは将来とびっきりの美人になるわ」
そんなことを言い出した。
まあ、あの弟子はドジだが顔はいいからな。こいつがこういうのもわからなくはない。
「どこで誘拐してきたの?」
だからといって俺を疑う発想が即座に出てくるのはどうかと思う。
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