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「?」
リッカが複雑そうな顔でミアを見つめる。ミアはそんなリッカを不思議そうに見返していたが。
この世界では人さらいが本当に多い。特に幼女は手軽に誘拐できるし需要もあるので、人身売買の闇市に行けば必ず何人かはいるもんだ。
そんな非合法組織の一つである盗賊団『デリンジャー』をリッカからの依頼で討伐したのは記憶に新しい。盗賊団どもを軒並み倒し、そのまま帰ろうとしていた俺を、人身売買のために誘拐されていたらしい銀髪の少女、もといミアが呼び止めてこう言ったのだ。
『わたしを弟子にしてください』と。
その後紆余曲折あってその中の一人だったミアを引き取ることになったというのが現状のきっかけだ。別に強制した覚えもないのだが、ミアはうちに居候するなり家事を買って出て、その日以来毎日のように皿を割っている。たまに花瓶とかマンドラゴラの鉢植えも割る。
しかしどういうわけか紅茶を淹れるのだけはうまく、たった今ティーカップに口をつけたリッカがぱちぱちと瞬きした。
「……美味しい。あなた、いい腕前ね」
「ありがとうございますー」
ミアはへにゃっと笑って嬉しそうにしている。その表情筋の緩い顔にリッカが胸を射止められたような仕草をした。
それから、ミアの隣に座る俺に羨ましそうな視線を向けてくる。
「……私も弟子を取ろうかしら」
「いいんじゃないか? 何ならこいつを持って帰ってもいいぞ」
「お師様!?」
ミアが裏切られたような顔をするが、リッカは残念そうに首を横に振る。
「そうしたいのは山々だけど、私あんまり構ってあげられないのよね。仕事あるし」
「勤め人は大変だなー。お前もさっさと隠居すりゃあいいのに」
「そうも言っていられないわ。まだ魔王討伐の後処理は終わっていないもの」
リッカは嘆息し、それから再度俺の方に向き直る。
あ、やべ。面倒くさいことを話そうとしてるときの顔をしている。
俺はにっこりと笑って言った。
「そうか、忙しいのか。じゃあはやく仕事に戻らないとな。出口はあっちだぞ」
「あらあら、何を言っているのかしら。私はここに仕事をしにきたのよ。――『法陣士』シグレ・ジウに依頼をするっていうね」
もう、すでに嫌な予感しかしない。こいつが俺のことを改まって呼ぶのは決まって厄介ごとを押し付けようとしているときなのだ。
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