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リッカはさらりとこう言った。
「シグレ。あんた、ちょっと王国の北に湧いたモンスターの群れを討伐してきてくれない?」
「断る」
「お師様……」
即答する俺に対し、ミアが隣から呆れたような声を漏らしている。
いや、だってなあ。
「そんなもん、わざわざ俺に頼むまでもなくお前が行けばいいだろ。お前なら敵が何百いようと楽勝だろうが」
リッカは冗談抜きで強い。
女神に剣の才能をもらっただけのインスタント剣士とはいえ、魔王討伐までの一年で何度も修羅場をくぐってきた経験もある。何千年も生きた伝説クラスのモンスターならともかく、ぽっと湧いた雑魚モンスターごときなんぞこいつを突っ込ませればすぐにカタが付くだろうに。
「……そうしたいところなんだけどね。ちょっと、他の仕事が入っちゃって」
「他のお仕事、ですか?」
「ええ。王女様が城を脱走したの。その捜索をしないといけないのよ」
「……は? 王女が脱走? マジで?」
「大マジ」
思わずおうむ返しする俺に、リッカはため息をつきつつ肯定した。
「第二王女……アリシア様はよく城を抜け出しては城下町に遊びに行っていたらしいんだけど、今回はもう二週間近く帰ってきてないのよ。彼女はまだ十四歳だし、最近は色々と物騒でしょ? だから捜索隊が組まれたんだけど、私もそこに入れられちゃったのよね。別にそれはよかったんだけど、ちょうどそのタイミングで――」
「国の北側でモンスターがいきなり活発化したと」
「そういうこと」
なるほど、そういうことならわからなくもない。
リッカはモンスター討伐に行きたくても、家出したバカ王女の捜索のため行けない。だから急きょ、リッカの代役が務まりそうな中で一番手近にいた俺に白羽の矢が立ったと。
「急な頼みだということは自覚してるわ。けど、あんたしか任せられる人がいないの。お願い、手を貸して」
リッカが、真摯な目で俺を見ている。その中には確かな信頼があった。
それはかつて一緒に旅をして苦難をともにした同胞への信頼だ。……やれやれ、そんな目をされたらこう言うしかないじゃないか。
「断る」
「……」
何となくリッカの堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。
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