プロローグ

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 すぐ近くだ。俺は最短距離でそこまで向かう。   やってきたのは山の斜面の向こうに口を開けるいかにもな洞窟だった。その入り口に無警戒に近づくと、中からいかにも人相の悪い男が二人出てきた。  片方がチビで、もう片方はノッポ。極端な二人組だが、むしろそれ以外は全部共通している―― 「何だァ、てめえ」 「何しに来た、ああ?」  ――すなわち伸びっぱなしのヒゲと髪、手入れの行き届いていない粗末な剣と胸当て、といういかにも盗賊っぽい出で立ちだ。  俺が無言で突っ立っていると、向こうも俺の姿をじろじろと眺めてくる。  俺は十八歳、という実年齢に相応の見た目だと自覚している。この世界の法では成人だが、連中から見れば若造に過ぎない。やや伸び気味の黒髪も、この地域じゃあ珍しくもない黒目も、あの二人には平々凡々とした容姿に映るだろう。  チビのほうが俺の姿を眺め終わるなりぶっと噴き出した。 「ぶははっ! おいおい兄ちゃん、そんな貧相なナリで何しに来たんだァ? 俺らに身ぐるみ剥かれに来たのか?」 「ったく運がねえなあ、おたく。ここが天下の盗賊団、『デリンジャー』のアジトだと知らなかったのかい?」 「……」  俺はその二人の言い様を、むしろ感心して眺めていた。すげえなこいつら。ここまで外見を裏切らないキャラクターってある意味貴重だぞ。  そんな感想を呑み込んで俺は聞いた。 「なあ、ここにあんたらのボスいる?」 「あん? お頭は今は大事な『商品』の検分中だが」  その答えに俺は内心ほくそ笑んだ。よしよし、無駄足にならずに何より。  そんなことを考える俺がどう見えたのか、チビのほうの盗賊が苛立ったように語気を荒げた。 「つーかテメェ、自分の心配したほうがいいんじゃねえの? 今からぶっ殺されて身ぐるみはがされる可哀想なお兄さんよォ」 「何か遺言あるなら聞いてやるぜ? 言いたいことあんなら言っとけよ」  なんて親切なんだ。それじゃあお言葉に甘えよう。
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