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「お師様はもう少し私のことを大事にしてくれてもいいと思うんです」
ミアがややふてくされた声で何か言っている。
「無事だったんだからいいじゃねーか。ほら、このクレープでも食って落ち着けよ」
「(はむっ)まったく、食べ物で釣ろうだなんて女性に対して失礼ですよ。お師様はいつも私を子供扱いして――わああ美味しい! 冷たいクリームなんて初めて食べましたよ! 感動しました!」
安定のチョロさである。
俺はそのへんの露店で買ったアイス入りのクレープ一口で機嫌を直したロリ弟子を呆れた目で眺めつつ、
「ま、過ぎたことをいつまでも気にしてないで楽しめバカ弟子。せっかくこんなところまで来たんだからな」
表情そのままの呆れた声でそう言ってやった。
――魔法都市シャレア。
俺やリッカが拠点にしている国の北西部に位置する大都市だ。かつて魔王の襲撃に備えて増築された城壁の中には見事な白レンガの街並みが広がっているが、この街の本質は街の奥に配置されている研究施設群にある。
良質な魔鉱石が採れるラドルク山脈、そのふもとに広がる魔法植物の宝庫・ラドルク樹林のすぐそばという好立地。そこから得られる魔法資源をありったけ利用して魔法技術の研究を進め、発展を繰り返してきた研究者の聖地――それがここ、シャレアという街なのだ。
まあ、魔法技術者志望なら一度は来てみたい場所だろうな。かくいう俺も、初めてここに来たときには露店に並ぶ見慣れない魔法具の数々に目移りしたもんだ。
観光客も多い。
三年前まではここの研究者たちは魔王討伐のために兵器の開発を国から命じられていたが、魔王が討伐された今じゃあ娯楽用の魔法陣なんかが開発の主流になっていて、街のいたるところに他では見られないマジックアイテムが転がっているようなありさまだ。
と、噂をすれば。
「バカ弟子、こっち寄れ」
「はい? わわっ」
目を輝かせて街並みを見回していたミアの腕を引っ張る。俺の行動の意味がわからなかったようで、ミアは不思議そうに俺を見上げたが――数秒後、さっきまでミアのいた場所の頭上すれすれを勢いよく通り過ぎる『何か』を見て目を見開いた。
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