世界救済が終わったら

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  ーーかつてこの世界には、『魔王』と呼ばれる一体のモンスターがいた。 『いる』ではなく『いた』。過去形だ。 なぜ過去形かといえば、すでにそいつはこの世にいないからだ。 その圧倒的な力と残虐さで破壊の限りを尽くした魔王は、今からだいたい三年前に剣士、魔法使い、モンスター使い、ヒーラーからなるたった四人のパーティーによって討伐された。 特筆すべきなのは、そのパーティーの四人中三人が当時十代半ばの少年少女たちで構成されていたことだろうか。 その逸話は瞬く間に国中に広まり、人々を驚かせた。彼らはいまでは『英雄』、『勇者』などなど輝かしい通り名で呼ばれる伝説的存在と化している。英雄達による魔王討伐からはまだ三年しか経っていないというのに、彼らを題材に作られた物語や歌は数え切れないほどだ。 ともあれ、そんな四人組による魔王の撃破が正式に発表されてから世界は目に見えて活気を取り戻した。ここ三年間の間でほとんどの土地が魔王に襲われる前の姿を取り戻していると聞けば、この世界に暮らす人間たちのたくましさを思い知らされる。 そんなわけで。 魔王討伐のために雇われていた傭兵くずれが稼ぎに困って野盗化したり、身寄りをなくした子供たちが人身売買の餌食になったりと、問題もまだまだ残ってはいるがーーおおむね世界は平和に向かって推移していると言っていいだろう。 言っていい、はずなんだが…… 「お師様! お師様っ!」 がっしゃあああん、なんて音が廊下の方から聞こえて来て数秒後、泣きそうな声とともに一人の少女が勢いよく俺の私室に入ってくる。
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