第1章

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「それじゃあ、流すぞ」  準備が整ったところで、桜太は浮を使用可能な方のトイレに落とした。この段階ではなんとトイレの中に水はなかった。どうやら溢れる前はどちらのトイレにも水はない状態だったのだ。これではいざトイレをした時に流れてくれるか不安になる。使用可能と思われたトイレも本当は使用不能だったのである。 「何度か押す必要がありそうだな」  覗き込んでいた亜塔も、流れるかどうか不安になったようだ。 「――なんか、そうやって誰もがトイレを溢れ返らせた気もするが」  芳樹が真っ当な不安を口にする。たしかに何度も流さないとと思えば思うほど水は違う方から溢れる仕組みのようだ。本当にこの下にあるのは排水管ではなく水の行き来するだけの管なのだろう。 「うっ、行くぞ」  少し躊躇いが生まれたものの、桜太は足でレバーを押した。すでに林田が踏んだ後なので手でやる気はさらさらない。 「まだ来ないぞ。水もそれほど来ていない」  使用不能の側にいた楓翔が叫んだ。やはり一回では水の水圧が足りないのだ。どこかで水漏れがしているのは確実だろう。 「これは心配だな。ちょっと下の階のトイレを見てくるよ」  水漏れの被害は下に出るはずと、林田は大急ぎで一階を目指した。このまま検証を続けていて下まで水浸しにしたとあっては大問題だ。 「意外とちゃんとしてるんだ」  走って行った林田を見送った千晴はそんな感想を漏らした。最初のアイドル勧誘のせいで林田のイメージは最悪だったが、ここでちょっと見直したというところだ。  そのまま何度は水を流していると、ちょっとずつ床に水が広がっていった。そして最後には浮が使用不能のトイレにぷかっと浮かんだのである。
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