第1章

7/9
前へ
/9ページ
次へ
「先生が置いていったリュックの中から失敬したのよ。それにはんだの融点は184度。それに対してライターの火の温度は800度と言われているのよ。切れるでしょ」  すらすらと温度に関する情報が出てくるところに、千晴が科学部に所属している理由が垣間見える。普通はそんなこと覚えていないだろう。  それにしても林田はリュックをトイレの床に放置していた。白衣を取り出してからそのままなのだろう。下の階の水漏れは気にしたくせに、自分の荷物に気を遣っていなくていいのだろうか。 「これは火傷しそうだな」  ライターで切れるということを論破できず、さらにニッパーを取ってきてとも言えなかった桜太は仕方なくはんだをライターで炙った。しばらく炙っていると本当にはんだが切れたから驚きだ。切れたところを楓翔が引っ張って行って回収が完了した。 「間にごみが詰まっている可能性もなしか。まあそうだよな。誰かがこのトイレで大便していたらすぐに問題は発覚していただろうし。実験していた奴はこの事実を知っているから用を足すことはなかったわけだ」  亜塔が汚れていないはんだを確認してそう言うが、よく今まで誰も腹を壊してこのトイレに駆け込まなかったものだ。そこは過去に先輩たちが実験をしていたせいだろうか。このトイレは排水管問題が発覚する以前にやばいというレッテルが貼られていたに違いない。 「科学部の先輩に呆れていても仕方ない。音の検証だ」  過去の悪行はこの際トイレ問題と一緒に片付けてしまうとして、桜太は音の検証という最初の目的に立ち返った。それにトレイに問題あろうと自分たちの卒業に関係ないのだ。さらに言えば北館の役割なんて少ない。 「行くぞ」  桜太は改めてトイレのレバーを押して水を流した。またしてもトイレの中には水がなかったから、この排水管はまったく意味がない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加