第1章

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「あっ、何か音がしたぞ」  真っ先に反応したのは芳樹だ。普段からカエルを追い駆けているので耳はいい。 「えっ?」  しかし他のメンバーの耳には水の音以外に聴こえない。仕方なく桜太はまた何度も水を流した。おかげで床がしっとりとしてくる。しかし小さな音が聴こえてきた。 「やっぱり何度も流さないと聴こえない音だったんだ。でも何だろう。すすり泣きっていうより振動音だよな」  亜塔が率直な感想を述べた。怖がる要素なしに検証するとこうなるという例がまた出来上がっている。しかし誰もが音の発生に気を取られていて突っ込まなかった。 「そうだな。振動となると、どこかが外れているんだろう。その外れた原因も、水が流れることで起こる共鳴振動だったとすれば話が早い。その揺れる音と隙間に水が流れる音が重なっているんだろうな」  音の分析を始めたのは莉音である。振動する音に雑じって、微かに違う水の流れる音がするのだ。 「あれですね。接合部分に水の流れが固有振動として伝わり続けることで外れるんですね。そして揺れも生んでいる。だから何度も水を流さないと聴こえないんですね」  優我が莉音の説明を補足した。これでほぼ間違いないだろう。芳樹が最初に聴こえたのは外れるきっかけの音だったのだ。そこに林田が慌てて駆け寄って来る。 「下にいると凄く音がするよ。ひょっとしてさ、噂は二階の天井部分から音がするっていうものだったんじゃないかな。幸いにして天井から水が振ってくることはないみたいだし」  なるほどねと、林田の指摘に納得する科学部一同だ。排水管は一階と二階の間にあるのだ。そこで鳴っている音を二階のトイレからするものだと勘違いしてもおかしくない。
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