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暗闇を切り裂くように流れる天の川が、夜空に広がっている。笹に飾られた短冊たちが夜風に揺れ、ささやくようなメロディを奏でた。
「今夜は七夕なのに、私なんかと遊んでいていいの?」
彼の前を歩いていた若い娘が突然振り向き、思いだしたように尋ねた。
「急に、どうしたんだい?」
「だって、今夜は一年に一度だけの、奥さんと会える日でしょ」
「……きみに夢中で、すっかり忘れていたよ」
「もう、彦星さまったら」
人目も気にせず、若い娘は彦星の腕に身を寄せ、満面に微笑みを浮かべる。それにあわせ、彦星も口もとを静かに緩めた。
だが、それもつかのま、いきなり若い娘を振りほどき、彦星は全速力で駆けだした。
「え!」
「やっぱり帰らせてくれ」
数歩先に見知らぬ男と仲睦まじくする妻のうしろ姿にすっかり動揺し、彦星はしばし走りつづけるしかなかった。
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