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私は、嬉しいと言っていいのだろうか。
複雑な想いを胸に、それでもついにやけてしまう顔を誤魔化すように、「普通、帰省って行ったらお盆じゃん…」と顔を背けてつぶやいた。
花火の音の中でも、爽太はそれを聞き取ったらしく、「いいんだよ、盆より花火が大事なの。俺らは」と笑った。
確かに、実際他の同級生もそんな子達が多い。
大阪の大学に行ったヨウくんも、就職して実家を出たあっちゃんも、「忙しいから実家には帰れない!」と言いながらこの花火大会だけはなんとか無理くり予定を空けて墨田に戻ってくる。
私達にとって、この花火は無くてはならないものなのだ。
そんな特別な日に、私が1人にならないように、爽太は離れ離れになった後もこうして毎年一緒に花火を見てくれる。
「爽太」
「何?」
花火を見上げてつぶやく私の横顔を爽太が見つめているのを感じた。
ジャングルジムを掴む私の手と爽太の手は触れそうな程近くにあるけど、決して重なる事はないだろう。
「ごめんね」
「全くだ。
早くお役ご免になりたいもんだ」
戯けて答える爽太に、笑える気がしなくて、それには返事をしなかった。
ダメだ、全然自信ない。
彼以上に好きな人を見つけられる気がしない。
毎年爽太が、こうやってふらっと帰ってくるせいだ。
でもそうさせているのは私だ。
毎年花火大会が近づくと、爽太を失った悲しみに不安定になってしまう私を、見るに見かねて来てくれるんだ。
あの日、花火大会の帰り、爽太は事故に遭い、『還らぬ人』になったのに。
「来年こそ、強くなるから…」
今度は、爽太が黙った。
そうして、最後まで2人黙って花火を見ていた。
グランドフィナーレの光の洪水が、夜空に落ちながら溶けていく。
真横に目を遣ると、そこにはもう爽太の姿は無かった。
「来年こそ…」
自信はないけど、わざともう一度声に出して、自分を奮い立たせるように言った。
私の声に、ほのかに煙の混じる夜風が優しく笑った気がした。
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