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彼の右足が、こめかみをかする。
耳元にチッという破裂音と少しの熱が発生し、背筋がゾクゾクした。
上体を斜め後ろへ反らし、そのまま後退、距離を取る。
が、相手の踏み込みが速い。
やばい、悪寒が止まらない。
「ねぇ」
打ち込まれるであろう拳を予見した体は、反射的にガード姿勢を取っていたが、彼はそのままステップを踏み、顔を私の鼻先へよこしてきた。
端整な作りの中で一際目立つ、夜空色の瞳に私は封じ込まれる。
「大好きだよ」
さっきまでの覇気とは裏腹に、ひどく優しい指先が固く握られた私の拳に触れた。
冷たい。
水が高い所から低い方へ流れるように、私の体温は奪われていく。
まるで、彼と一つに繋がったかのように、私の中のエネルギーは彼の中へ落ちていった。
「おかえり」
彼の瞳の中の私はとても醜い顔をしていた。
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