第1章

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いつまでもめそめそしていられない。 落ち着いたら、夫の葬式を行おう。 骨がなくたって、魂は必ず帰ってきている筈なんだから。 きちんと供養してあげないと可哀想だもんね。 私は親戚一同に、夫の死を伝える為、手紙を書いた。 葬儀の日取りや、坊さんの手配など忙しくなる。 そんな準備をしていた時。 ガラガラと音が聞こえた。 玄関の引き戸が開いた音だ。 こんな夜中に誰だろう? お隣さんが心配してきてくれたのかな? なんて思いながら、玄関に向かう。 そこで私が見たものは……。 「あの…… どなたですか?」 分からなかった。 周りが薄暗く、玄関に立っている人の顔がよく見えない。 私が尋ねると、その人影は応える。 「俺の顔を忘れちまったのか?」 「え?」 「いやー、参ったぜ まさか初戦で頭を殴られて気絶 そのまま一時的な記憶喪失に陥るとはな お陰で、10年間捕虜にされてたよ」 …………。 私は思わず口を覆った。 また、目から涙が溢れてくる。 でも今度の涙は、さっきのとは質が違った。 「あなた……なの?」 「他に誰が居るんだ?」 人影が近付き、その顔が露わになる。 そこには、私がずっと見たかった顔が笑っていた。 夫は言った。 「ただいま」 私は夫の胸に抱きつく。 「おかえり!」
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