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滲む涙がピタッと止まった。
「だからもう晴ちゃんを不安にさせたくないからバイト辞めて職安行って昨日面接してきた。とりあえずまだ結果待ちだけど受かったら晴ちゃん俺と結婚してください!」
一息に言った後、琢磨はポケットから小さな箱を取り出した。紙で出来た四角い箱を開けると、中にはピカピカ光る銀の輪にピンクの石がついていた。
それを横に置いた琢磨はまた頭を下げた。
「や、コレは安物だから仮の指輪と言うことで…。仕事決まったらちゃんとしたの買うし貯金もするし、だから晴ちゃん!俺と結婚してください!」
あたしは驚きのあまり腕を組んだまま動けなかった。
まさか今日がその日とは。
だからスーツかこの野郎!こちとらくたびれた部屋着だっつーの!
理想の言葉やシチュエーション、返す言葉やリアクション。
色々色々想像したのに。
スーツ 土下座 安い指輪。
部屋着 スッピン 仁王立ち。
色々色々、色々色々想像したっつーの!!
それにあたしの1週間の心労とか、先の不安とか、やっぱ悪いのは琢磨だとか、夜景を見ながらが良かったとか…色々頭に浮かんだけど。
ずっと黙ってたあたしからでた言葉はコレだった。
「………おかえり。」
三十路目前のひねくれた心は若い決意に浮かれまいと、怒りでもなく返事でもなく、照れ隠しでそう言った。
「……っ!ただいまっ!」
顔を上げて琢磨が言った。
この世の終わりだったくせにそんな安心した顔すんなっつーの!
あたしも泣くんじゃないっつーの!!
END💍
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