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私は家を出るまで父の事が嫌いだった。
すぐに怒鳴り散らすし、悪い事をすれば殴られる。
兄や姉も父とよく喧嘩し、一番被害を受ける母は見るに堪えない時も多々あった。
そして、いつも何をしているか分からない。家事だって全然しているところを見ないし、偉そうに命令ばかりしているイメージしか無かった。
しかし思い返せば違う一面に気付く。
殴るなど、手を出すのは悪い事をした時のみ。それに力で劣る女性には絶対に手を上げない。
怒鳴り声を上げても、一線を越えた酷い内容は決して口にしない。
そして私が小さい頃、お腹が空いたと言えば慣れない手付きでチャーハンを作ってくれた。
兄や姉に母を独占され寂しそうに俯いていると、いつも膝の上に私を乗せ抱きしめてくれた。
他にも休みの度に色々なところへ遊びに連れて行ってくれた。朝早くから一人で起きて車の準備をし、長距離運転をした後に子供達の面倒を見て、帰りには遊び疲れて眠る子供と母を家まで無事に送り届ける。
「父さんも、俺の知らないところで頑張っていたんだな」
自分が父親になって同じ事を行い、初めて父の偉大さを肌で感じた。
そんなある日、父から急に電話が入る。
「真司に話があるんだ。真理子ちゃんと結婚式を挙げないか?」
「父さん、突然どうしたの? 真理子の為に結婚式は挙げてやりたいけど、まだ経済的にそんな余裕は……」
「式の費用は気にするな。父さんが全部出してやる。真一の時も俺が出したんだぞ」
「兄ちゃんの時も? ……何か良く分からないけど、週末にでも顔出すよ。その時に話そう」
何故急にそんな事を言い出したのか分からないまま、週末になると一人で実家に向かった。
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