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「あれ、父さんだけ? 母さんは?」
「母さんは買い物に行ったよ。まあ、ここに座れ」
実家に帰ると、いきなり父の前に正座をさせられる。
「この感じ……何か久しぶりだね。俺、何か怒られる様な事をしたかな?」
「余命、半年だそうだ」
「……へっ?」
意味が分からず、言葉が上手く出てこない。
「真一や洋子は結婚式を挙げたろ? だけどお前だけ挙げていない。真理子ちゃんだって結婚式は挙げたいはずだ。だから俺が生きている内に見せてくれ」
「兄ちゃんや姉ちゃんの式を挙げた時とは状況が違うだろ? 父さんが体調崩してから、家計は厳しいはずじゃないか」
「費用は気にするなと電話で言ったろ? 新車を買おうと貯めていた金がある。どうせこの体調じゃあ、まともに車の運転なんて出来やしないからな」
元気に話す父を見る限り、余命半年とは信じられない。
しかし迫力に気圧された私は、この日から全ての休みを結婚式の準備へと使う事になった。
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