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半年後。
父の体調は、式に参加出来ないと危ぶまれるくらい悪くなっていた。
それでも重い体を引きずり、式の開始3時間も前に父は式場へと現れた。
「真司、おめでとう」
「有難う、父さん」
「この日まで、何とか死なずに済んだな……」
哀愁漂うとは、こういう事を言うのだろうか?
あんなに大きかった父の背中が酷く小さく見える。
「結婚式当日だよ? 死ぬとか暗い事を言うなよ。それより父さんが買ってくれた子供用のドレス、美優が着て俺と一緒に登場するからね」
「そいつは楽しみだ……」
こうして結婚式は始まり、笑顔溢れる時間が過ぎてゆく。
やがて最後の挨拶へと差し掛かり、父が先に挨拶をした。
「……見ての通り、私は話す事も辛いほどに体調が優れません。だから一言だけ……この日を迎えられて、本当に良かった……」
……
……
止めてくれ……涙を溜めながら話す父の台詞を聞いてそう思った。
普段泣き顔なんて見せた事の無い父が、肩を震わせながらそんな台詞を言えば、私も涙が出るに決まっている。
私は涙を必死に堪えて最後の挨拶を務めた。
「私はごく最近まで碌な仕事をせず……フラフラと過ごしていました。その結果……父や母……兄や姉には数え切れないほどの……迷惑を掛け続けて来ました……」
感情が波のように押し寄せて上手く言葉が出ない。
そんな時、会場から頑張れと声援が聞こえて来た。
私は涙を拭い、思った事を必死に言葉へ乗せる。
「……そんな私でも、新しい命を授かりました。そしてやっと……親の偉大さを感じる事が出来たのです。私の力は小さく、大きな事は言えません。でも……一つだけ皆さんの前で誓います。私の手に掴める大切な存在……真理子、それに美優。そして今後産まれて来るであろう命は……絶対にこの手で守って見せます!」
式場は温かい拍手に包まれる。
こうして何一つ不満のない素晴らしい結婚式の幕が閉じた。
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