ポチ

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それから家族には、以前と変わらぬ生活が訪れた。 「ねえ、タイチ。タイチはおにいちゃんになるのよ。」 母親は嬉しそうにタイチに報告した。 タイチは一瞬、キョトンとしたが、意味がわかるとぱあっと顔が明るくなった。 「本当?弟?妹?」 「まだわからないわよ。」 母親はタイチの頭を撫でて笑った。 1年後、タイチはおにいちゃんになった。 妹だった。タイチは妹の面倒を見たがり、とても可愛がった。 「すっかりタイチもおにいちゃんの顔になったわね。」 母親は父親に微笑みかけた。 1年というものは、早いもので、赤子はすぐに寝返りをうつようになり、 今腹ばいになり、まさにハイハイをしようとしている。 手で前に進むところまではできたのだけど、どうしても足が前に進まない。 「頑張れ!」 タイチが手を叩いて、妹のハイハイを促す。 そして、ついに足が床を蹴り出し、前へ進みだした。 「やった!すごいぞ!」 タイチは手を叩いて喜んだ。 そして、その赤子は満面の笑みで声を発した。 「ワン!」 両親はぎょっとして、その赤子を見た。 黒目がちの目が、中央に寄ったような気がした。 「ワン!ワンワン!」 その声を聞いたタイチは、目を見開いた。 そして、口角がだんだんと上に引き上げられた。 「ポチ!」 そう言うと、タイチは妹を抱きしめた。 「おかえり、ポチ。」 抱きしめられた赤子は、異様に長い赤い舌をハアハアと垂れ流し涎をしたたらせていた。
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