願い事ひとつ

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あの日の願いが叶ったのなら と思えば 心は晴れやかになる 俺が少しトリップしている間にも 祭壇の上で行われる式は着実に進んでおり 男が彼女のベールを上げ ゆっくりと誓いのキスをした !!!! その時、腕に何かが触れ 身体がビクッとした 久保が俺の腕をそっと掴んだのだ 横目で見た久保は 俺を見る訳でもなく真っ直ぐに正面を見つめていた 大きく見開いた瞳には僅かに涙が浮かび 零れ落ちないよう更に瞳を大きく開かせているようにみえた 俺の腕を掴んでいた手はスルスルと 腕を滑り落ち 俺の掌に辿り着くと 温かい感触が広がった 涙を堪える女に慰められているようなそんな気分になる そうか… 俺は久保に慰められているのか。 人の温もりが沁みてくる 久保にそんな気持ちはなくても 俺はこの温もりに癒やされていたんだ そっと久保の手を握り返し 今日を境にこの想いを断ち切るよう 正面に立つ清水の晴れ姿を 瞼に焼き付けた その間もずっと握られた手から 温もりが伝わる
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