願い事ひとつ

33/39
94人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「久保…顔上げて」 しゃがみこんだ久保は 大きく左右に首を振る 「くぅ~~ぼっ」 両脇に腕を差し込み 力任せに立たせる 久保はまだ左右に首を振り イヤイヤしていて話にならない 両頬を摘まみ顔を上げさせると 「いしゃい(痛い)いしゃい(痛い)」 真っ赤な顔をさせながら やっと俺の顔を見た 久保の羞恥に滲む涙が 俺の何かを駆り立てた 「もう一回言って」 両頬から手を離すと 久保は赤く跡が残った頬をさすりながら 俺の顔を見上げる 見つめ合う瞳は大きく揺れ 恥ずかしさで消え入ってしまいそうな小さな声で 「好きです。 河辺さんが…好きです」 ズキン ギュッと胸が締め付けられた 言葉が出ず久保の顔を見ていると 不安になったのか 恐る恐る俺の名前を呼ぶ 「河辺…さん?」 「久保はさ、いつから俺の事好きなの?」 まさか、そんな質問されるとは思ってなかったんだろう 久保は固まってしまった 「……」 「久保?」 「………………。」 腰に手を回し身体を引き寄せ再度訊ねる 「いつから?」 至近距離に驚いた久保は パチパチと何度も瞬きし顔を赤らめる 見つめ合う事に耐えれず 赤い顔を俯かせると 「河辺さんが教育係だった時からです」 …教育係って 俺は新人で入社してきた久保の教育係だった それって、そんな前から俺の事を? 「何で…俺?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!