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「荷物、取りにいかなくちゃな。」
「え?荷物?」
「ああ。あいつの部屋に。」
たくみは、ベッドでタバコを吹かしている。
とたんに隣の女が不機嫌になる。
「まだ、あの女と切れてないの?信じられない!」
「怒るなよ、俺、あの女のこと、別に好きじゃねえし。愛してるのはお前だけだよ。」
そう言うとたくみは女を抱き寄せようとしたが、女は裸のまま、たくみの腕をするりと抜けた。
さっさと服を身につけだした女にたくみは慌てて言い訳をする。
「ホントだって。あんな年増、俺が好きになると思う?28だぜ、あいつ?飯食わせてくれるから、行ってただけなんだよ、マジだってば!」
女は服を身につけ、鏡の前で髪をとかしながら振り向いた。
「飯炊きおばさん?」
そう言うとくすりと笑った。
「そそ、飯炊きおばさん。料理が上手いのだけが取り得。」
そう言うと、たくみは立ち上がり、後ろから女を抱きしめた。
女はそれを振りほどき、たくみを睨みつけて言った。
「だーめっ!ちゃんとケリつけなきゃ、もう抱かせないからねっ。そうだ!今から荷物取りに行こうよ。あたし、一緒に行ってあげる。あんたは飯炊きおばさんよってのを思い知らせてやるわ。」
さすがのたくみも難色を示したが、押し切られるように一緒にホテルを出た。
まあ、これで腐れ縁が切れるのもいいか、その程度に思っていた。
しかし、これからの修羅場を考えると、気分は重く足取りも重かった。
部屋のチャイムを鳴らした。何度鳴らしても、菜摘は出てこなかった。意地になった女はチャイムを連打した。
「バカ、やめろよ。苦情が来るだろ。」
「いいじゃない。言われるのは、この女なんだから!」
仕方なくたくみは、合鍵でドアを開けた。その瞬間、女は部屋にずんずんと先に入って行った。
「よ、よせっ!」
たくみは止めようとしたが女は聞かなかった。
「こんばんはぁ、たくみの荷物を取りにきましたよぉ~。」
女はふざけた声で、奥のリビングへの扉を開いた。
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