思想膿漏

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本人の意思とは関係なく、思想は進む。 「それは時にかたつむりのようにゆっくりと、時に崖から落ちるように、既に気付いたときには思想は終わってしまっている。」 Aがそう言う。 「しかしながら『思想が終わってしまった』と感じているときにはすでに別の思想が私の中で始まっているのだ。」 Aは頬杖をついて、私の目をじっと見つめた。 「私が何を考えているか、わかるかい?」 「いや、何も。」 ぶっきらぼうに答えたのが気に食わなかったのか、Aは少しむくれた。 「私はその」 「鏡に独り言を言っているわけではないことは、わかるね?」 ため息をついて、頬杖をついて、そこで話にオチをつけようとしているのか。Aは指で髪の毛をくるくると巻いて、退屈そうに私を見つめた。 「いや、僕は」 沈黙。 言葉がうまく見つからない。
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