思想膿漏

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「いやしかし」 「人の言葉を真似て発言を行わない人間なんて居るだろうか。僕の知る限りでは、人は相手に伝わるように言葉を選ぶため、共有の言語、既存の言語を使って会話を行う生き物であると」 話も終わらぬうちに、Aは大きく溜息を吐いた。 軽蔑するような、悪戯した子供を見るような目で私の目をジッと見つめた。 「君は言った。『僕の知る限りでは』と。そこからがもう駄目だ、思考することを完全に放棄してしまっている」 「そしてもう一つ。相手に伝わるように言葉を選んでいるのではない。人は『相手がそう喋っているから』そういう風に喋っているだけに過ぎないのだ」 Aは心底つまらなさそうに、椅子に腰掛けて首を高い背凭れに預けた。 古い木製の椅子はギィと小さな悲鳴をあげ、Aの重みで少し下へ向かっていくように見えた。 「あひこくけそてのめ」 Aがこちらを向いてゆっくりと言葉を発した。
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